生まれる前

 

「お腹の中にいたころ、何回も流産しかけたんだよ」

親から初めてこの話を聞いた時、何を思ったのか、今では分からないが、たいして何も思わなかったはずだ。

しかし、いまこのことを振り返ると「どうして生き延びてしまったのだろう」と感じる。

私は生まれたのではなく、生き延びてしまったのだ。私は漠然とそう考えている。

生まれる前に死ぬことさえできていれば……。

 

このことが、私の根底にあるかもしれない。

私は生き延びた。

その後に起こる様々なことを知っていたら、果たして私は死ぬことを断念しただろうか?

私はこれまでに何度も考えた、どうして死んでおかなかったのだろう?

いま私は生きていて、この先に起こることは何も知らない。差し当たって、さっさと人生を終わらせるという考えもない。ただ、いちばん最初の選択を間違えた、と感じている。

生きるべきか、死ぬべきか……?

 

私は人として生きることに不向きだ。他の人間と関わるあらゆることが嫌いだ。しかし、本当に人間として生きるなら、友人は必要だ。

私はひとりでいることが好きだ。人に興味を持ち続けることが難しい。何にしてもひとりでやる方がいいし、死ぬ時はひとりがいい。

私は人間として生まれてきたはずなのに、何かが間違ってしまった。私は間違って生き延びた。

生まれてさえいなければ……。

 

誰にも理解してほしいとは思わない。誰でも、自分いがいのことは分からない。他人のことを理解できると思うなら、それはただの驕りでしかないだろう。

それでも私は誰かに理解してほしかったのだと思う。今の自分に不満はないが、できることなら私は人間になりたかったのだと思う。

 

生まれて来なければ、私はいまごろどうなっていたのだろう?